谷川俊太郎との出会いは30年前から始まり、東京オペラシティ アートギャラリーでクライマックスを迎え… (過去サイト・アーカイブの再投稿、2018年1月26日) TANIKAWA Shuntaro R.I.P. (+ repost from the archive, 2018/1/26)
Link to the now defunct ARTiT website
https://www.art-it.asia/u/sfztpm/roHnqjcsIJvYzbRCh4ga/
Ruhe in Frieden, mein lieber Nachbar Tani-Shun. Du, Dein Leben waren eine Bereicherung für mich hier in Japan.
Die Sonne scheint wunderschön in Asagaya, 19. November 2024
Mario
Literatur
Jürgen Berndt und Fukuzawa Hiroomi (Hrsg.): Tanikawa Shuntarô. In: Momentaufnahmen moderner japanischer Literatur. Silver & Goldstein, Berlin 1990, ISBN 3-927463-10-8. S. 90 bis 95.
https://de.wikipedia.org/wiki/Tanikawa_Shuntarō
ご注意:1982年には芸術選奨文部大臣賞に選ばれたが辞退し、国家からの褒章は受けていない
2016年10月13日、東京オペラシティでの素晴らしい「没後20年 武満 徹 オーケストラ・コンサート」(1) の直後、甲州街道沿いバス停近く、お一人で歩く谷川氏を発見:
「谷川さん、南阿佐ケ谷まで、私の妻と一緒にタクシー乗りませんか?」ー 「いいえ、ちょっと歩きたいので、大丈夫ですよ」
現在も続いている朝日新聞の谷川俊太郎「どこからか言葉が」のコーナー、2016年10月26日の詩を愉快な気持ちで妻と読みました:
「天使考1
一度でいいから天使を見てみたい と誰もが思います
だって絵でしか見たことがないのですから
でももしバス停に天使が立っていても
きっと誰も気づかないでしょうね
天使自身だって自分が天使だということを
誰にも教えられていないのですから
天使はウスバカゲロウの羽根を広げて
蟻地獄からふんわりと大気に浮くのです
漢語もラテン語も話せない無学な天使は
歌の気配すらない放射性廃棄物や
とっくに言葉がくたばってしまった議会を
律儀に見下ろして滑空しています
尻尾があったらいいのにと天使は思います
翼はもちろん大好きですが
とこどき空がうっとうしくなることがあるのです
どこまで行っても終わりがないので
行きに止まりになる林の中の道を
犬みたいにハアハア喘ぎながら歩きたくなるのです
雨が木立をひっそりと濡らしています
天使の翼も濡れそぼっています
噴水は似合うけれど雨は天使に似合わない
そう思いませんか?」
1987年公開、ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン・天使の詩」。(2)
その頃、私はベルリン大学時代で、初めて谷川俊太郎の世界観に触れました。ちょうど、ベルリン映画祭のきっかけで、寺山修司の映画が上映されていて、その中に「寺山修司&谷川俊太郎―ビデオ・レター」というものがあり、興味深く観ていました。(3)
Pre-internet時代。海外で紹介される日本文化や文学のズレ、違和感、古臭さは、明らかな事実でした。
永遠に誤解されるのを感じ、その状態を自分の力で変えるつもりでした。
私の企画で、1990年に「Momentaufnahmen moderner japanischer Literatur 現代日本文学」という本をベルリンで出版されました。
権威ある日本文学史の学者たちの協力により、世界で初めて日本純文学の代表小説家(井伏鱒二から吉本ばななまで)34人を、 リアルタイムで紹介できました。その半分以上の作家は、初めて外国語の翻訳が行われた、という内容になっています。
(そして現在、私は同じ文脈で、今度はinternetを使い、無料で、日本の現代アーティストたちを紹介するために、このARTiTブログを書いています。)
初面会は、1989年。谷川俊太郎さんに直接電話し、ご自宅での執筆現場を撮影させていただきました。
毎回会う度、謙遜家で、脱コンフォーミストであることを実感し、尊敬する日本男子のお一人です。
彼の願いに答え、1990年にはドイツのラジオ番組で、いくつか谷川俊太郎の詩を朗読しました。その中の一つを今日はこちらにご紹介します。ベルリンの壁の崩壊を意識しながら…1964年の作品:
MAUERN UND SCHREIE
Jene, die die Mauer von Warschau niederrissen
bauen eine Mauer in Berlin
jene, die die Mauer von Warschau bauten
wollen die Mauer von Berlin niedereißen
jene, die ‘Hitler!’ schrieen
schreien ‘Kennedy!’
auch jene, die nicht ‘Hitler!’ schien
schreien ‘Kennedy!’
jene, die nicht ‘Kennedy!’ schrieen
schreien ‘Chruschtschow!’
doch denen, die keine Mauern bauten
und die nichts schrieen
bleibt denen etwas andres übrig
als in Mauern eingesperrt um Hilfe zu schreien?
その後、谷川氏の連詩・朗読会に出席したり、彼と親交の深かった、静岡県三島市の大岡信 (4) や、北軽井沢の武満徹 (5) の別荘にお邪魔させていただいたりもしました。
このように今までの感動的な思い出と気持ちが、開催中の「谷川俊太郎展」@東京オペラシティ アートギャラリーでクライマックスに達し、この優雅さの感じるレトロスペクティブを強くおススメいたします。
上手く構想された3つの展示会場。
約六六年の谷川の多彩音式な詩作を巡って、日本社会のミクロ・マクロ・コスモスが、情動的に低速度執筆を始めたような空間になっています。
恐ろしさも描き出す単語を作るアトリエ=ごく普通の我が家へようこそ!といった感じで、昭和モダニズムから平成終わりのsocial coolingまで、知的好奇心に燃えている独自の創作。
感覚的な谷川作風には少しずつ変化あり、住んでいる家・ハビタットにほとんど変わりはない。
世界中、日本、東京、阿佐ヶ谷のザ・谷川・サガ。
「実は、恋したことはない。」と、公式に反抗的意思表示をされています。
思慕の情に堪え兼ねる詩人、色あせない運命劇。
ペルソナ・ア・ラ・マスカレード。
ぱ・ぺ・ぴ・ぽ・ぷ & ラウス・ビスト・デュ。
レセプション・パーティーに主人公が登場せず、お楽しみにしていた大勢のファンたちの為に届けられた詩を、冒頭部分はないですが、記録させていただきます:
「…….少々やけなところもあるかもしれないが、後悔はしていない。
むしろ、感謝の毎日だ。
私の書いたものは、比較的、安く、手に入る。
書いた、私自身は売り物ではないが、
詩を産む男は、どんな暮らしをしてるのか。
そんな興味を抱く向きもあるらしい。
絵描きじゃないから、展覧会は無理だ。
音楽家じゃないから、コンサートも開けない。
いわば、マックで書くから、手書き原稿もない。
何を並べりゃいいのか、知恵を絞った。
熱心なスタッフに恵まれて、ここまで来たんです。
何か、自分が他人みたいに思えます。
詩が突然リアルの風にさらされて、
恥ずかしいやら嬉しいやらです。」
人生は観察で始まり、人生は過去の生活や仕事をじっくりと振り返る追憶で終わり。
魅力的な展示空間の谷川人間八十七歳の全体像。
ザ・タニカワ・ウタ・シンフォニー。
皆様、東京オペラシティ アートギャラリーへぜひとも足を運んでくださいませ。
東京、2018年1月26日
亜 真里男
補遺
(1)
没後20年 武満 徹 オーケストラ・コンサート、2016年10月13日
東京オペラシティ・コンサートホール
https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=7370
(2)
マリオ・アンブロスィウス「ベルリン・壁のあとで」ヴィム・ヴェンダース(文)リブロポート出版社、1991/2年
https://www.amazon.co.jp/ベルリン・壁のあとで-マリオ-アンブロスィウス/dp/4845706318
(3)
寺山修司と谷川俊太郎のビデオレター (1982-3)
http://www.asahi-net.or.jp/~cw5t-stu/TERAYAMA/videoletter.html
消えることがありますので、お早めに:
Video Letter (Shûji Terayama & Shuntarô Tanikawa) 1/6
https://www.youtube.com/watch?v=wyK9QITsNsw
(4)
追悼-大岡信 (2017年4月6日)
http://www.art-it.asia/u/sfztpm/bHYTmQfRp18XJLlw30gs
(5)
マリオ・A カメラの前のモノローグ 埴谷雄高・猪熊弦一郎・武満徹 (集英社新書) 2000年
https://www.amazon.co.jp/カメラの前のモノローグ-埴谷雄高・猪熊弦一郎・武満徹-集英社新書-マリオ・/dp/4087200310
谷川俊太郎展
TANIKAWA Shuntaro
期 間:2018年1月13日 ─ 3月25日
会 場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11:00 ─ 19:00 (金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(2月12日[月]は開館/2月13日[火]は振替休館)、2月11日[日](全館休館日)
入場料:一般 1,200円(1,000円)、大学・高校生 800円(600円)、中学生以下無料
*同時開催「収蔵品展061 なつかしき」、「project N 70 宮本穂曇」の入場料を含みます。
*収蔵品展入場券200円(割引は無し)もあり。
*( )内は15名以上の団体料金
*障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。
*Arts友の会会員は無料。(会員証をご呈示ください)
*割引の併用および払い戻しはできません。
開催記念対談
① 1月27日[土] 都築響一(編集者) × 谷川俊太郎
② 2月10日[土] 小山田圭吾(コーネリアス)(音楽家) × 谷川俊太郎
時間:各回14:00 ─ (13:45開場)
会場:東京オペラシティビル7F会議室
定員:各回160名(全席自由)
参加費:無料(展覧会の入場は別料金)要整理券
東京オペラシティアートギャラリー
〒163-1403 東京都新宿区西新宿 3-20-2
03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.operacity.jp/ag/exh205/
to K. Tanikawa
Be sleep baby
Toru Takemitsu
(1960年生まれ、現在、作曲家とピアニストである息子、谷川賢作への作曲)
Up-date:
https://www.facebook.com/photo?fbid=9449843008373095&set=pcb.9449844008372995
父・谷川俊太郎が13(水)の夜に亡くなりました。92歳でした。
私は中国からの公演の帰途についているところで間に合いませんでしたが、妹の志野が急遽NYCから駆けつけてくれて、娘と一緒に最後を看取ってくれました。穏やかな最後だったということです。
多彩な詩で多くの人を魅了し。。。いや、そういう紋切り型ではなく、息子の目から少し
今年三が日が過ぎてから一時的な不調におちいり、その後5月、7月にも一時的な不調時期はあったのですが、そのたびに数日後にはケロッと立ち直り、特にどこか病気ということではなく「自宅で最後まで生活したい」という本人の意思を尊重し、療養というか生活というか、チーフヘルパーのFさんとそのチームの方々と二人三脚で介護してきました。
いつもユーモアとウイットに富んだ人で、好調時は変わらぬ俊太郎節もきけて楽しかった。不調時は「今日はベッドから出ない」なんて言い張る日もありましたが、なんとかなだめすかしベッドから出て車椅子でリビングに移ると、またケロッと機嫌良くなったり😅
それにしても朝日新聞の連載最後の詩が「感謝」だ、なんて。。。ヘルパーさんや私のこまごまとしたことにも必ず「ありがとう」と言ってくれました。感謝しなければいけないのは私を含めた家族全員です。
いつか私がぼそっと「おれはあなたほど売れてないから。。。」と呟いた時「人はそれぞれが、それぞれのところでしっかりやればいいんだよ」とボソッとこたえてくれました。そういうとこも含め歳とっても謙虚な人でした。92歳でもTシャツとGパンが似合うような。
コメント欄は「記帳コーナー」のようにあけておきますが、個々への返信はできません。お許しください。メッセージも同様です。
皆様と同様私も、俊太郎の詩に驚き、感心し、クスッと笑わされ、ほろっと泣かされ、楽しかったですね。
紋切り型ですが、彼の詩はずっと皆さんと共にあります。
ありがとうございました。深く深く感謝申し上げます。
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