塩田千春作:孤独と生命線の神秘な相関巣 (過去サイト・アーカイブの再投稿、2013年2月3日) SHIOTA Chiharu: Mysterious Nest-specific Correlations Between Loneliness and Lifelines (repost from the archive, 2013/2/3)
Hallo Chiharu,
herzliche Grüße aus Tokyo nach Berlin.
こんにちは、塩田さん、東京からベルリンへ「お元気ですか」。
文化(国家)によって、人間関係が変わり、体の動き、挨拶、会話語彙も変化していきます。現代アートの実行さえ、活躍中の環境次第で、鑑賞者の思想と反応の相違が多々あります。
ドイツ、ベルリンを拠点に活動している塩田千春さんには、自分の創り上げた サイトスペシフィック・インスタレーションに対しての誤解、違った解釈を耳にする事がしばしば起こるでしょう。それでも、今までに想像もしなかった、嬉しい、感動的なエピソードをたくさん経験され、グローバルアート界で注目を浴びる日本のトップ・ランナーです。
このcritical positioningを実現するため、塩田さんは日本を離れ、1996年からドイツに移り住みました。そしてまず、 Hochschule für Bildende Künste Braunschweigに新しくできた「professorship for performance」を持つマリーナ・アブラモヴィチ (Marina Abramović) (1)に師事し、その後、Universität der Künste Berlinでレベッカ・ホーン(Rebecca Horn)(2)の教えも受けています。この、他に例がない特権を強調すべきと思いここに記しました。
振り返ると1999年、ベルリンの壁崩壊10年後。
塩田さんと私が、約1km圏内のアーティスト仲間で、同じ友達と交流し、同じ刺激的な話題を浴びた「aktions galerie Berlin」で作品を展示し、さまざまなアクションを起こしました。その時 、彼女のパフォーマンス・ビデオ作「Bathroom」(’99年)を初めて観て素晴らしく感動したのですが、「日本女性のイメージ」に対する違和感を絶妙に表現しており、その強いインパクトを今でも覚えています。ちなみに1990年、同じくベルリンで行われた、詩人・伊藤比呂美の挑発的なパフォーマティヴ朗読が、どことなく塩田千春のアーティスティック・プラクティスと共時性があり、私はここで相互関係を結ぶ事が出来ました。
そして、塩田さんと私は、「制度批判」に関する構築 、「お美術」に対置して考えさせる製作を、別々な実践で生み出していきました。私の場合は、ドイツで執筆している芥川賞作家・多和田葉子(3)とのコラボレーションが著名です。
それから数年が経ち、彼女はベルリン、私は東京を生活拠点に選びました。
この記事のために調べてみた所、現在、塩田千春のアーティストとしての活躍は、お陰様で、草間彌生の次に匹敵する「日本」のNo.2 「女流作家」になったと思っています。(4)
このように言うと、疑問視される問題点ですが、私は、どうしても現代アーティストに対して、性別を無視できず、アイデンティティ、ジェンダー論、DNAを意識せざるを得ません。特に、作品、インスタレーションとパフォーマンス・アートの基準を理解するために、ケース・バイ・ケースによって、製作者の性質を知った方が良く、それが評価を高める重要な可能性になってくるからです。
そうすると将来、例えば、20年、30年後、ベルリン在住の塩田さんをどの様に「カテゴライズ」すればいいかを考えなければなりません。
「ドイツのコンテンポラリー・アーティスト」または「日本の現代美術家」のどちらでお呼びすれば良いのでしょう? 我が島国では、国際活動の場合、いつも言葉の定義に悩まされます。そもそも彼女の理念、「製作の居場所」に対して、この質問は重要でしょうか?
特にアートシーンの中では、東京よりベルリンの方が生活しやすい環境である事はよく知られていますが、彼女の場合、アーティスト・キャリアと幸せな子育てという人生設計で考えると、ある程度固めた生活場所を確保するのが普通でしょう。とすると、ドイツに暮らしていたとしても、にっぽんの芸術賞や紫綬褒章は、はたして期待出来るのでしょうか?
さて、塩田作の力動説をめぐっては、ありがたく、無国籍な抽象と日本女性のナラティブ 、現実と彼岸、自己と外界、マルチ・レイヤー的なオシログラムを感じることが出来ます。それらは綿密に考えさせられ、距離をとりながら「気・空」を追求し、瞑想にふけってしまいます。キリスト教の白いウェディングドレス、西洋の白いベッド、個人的な、少女時代の(?)記憶、現地の特徴的な物語、楽器のメロドラマ、見事にペインティング・オブジェ・インスタレーションの形で、塩田のコスモスが優美に創り上げられています。時々、分裂生殖、 居心地のいい神秘な巣が観られ、謎的な孤独、非生命を知覚してしまいます。
冒頭にも述べましたが、文化やジェンダーの背景による、現地住民と作品との対話式な反応はさまざまです。しかしその誰もが、shaman的な存在を感じ取っているのではないでしょうか。神社、お寺、モスク、教会などをお参りするかのように、モダニズムな「美術館」「特別な空間」を訪ねるspiritual seekersは、塩田作の前で静かに冥想している事を、少なからず感じさせられます。
日独伊のバックグラウンドを持つ私の個人的なantagonismですが、ワシントンのアメリカ合衆国ホロコースト記念博物館(5)を訪ねた時や、塩田の「靴のテーマ」(6)を扱った展覧会を拝見した時は、心は穏やかではいられず揺れ動きました。また、南ドイツ・フライブルク市(Freiburg)でのインスタレーション時には(7)、小学校の頃に座っていた同じ椅子に、いわれなき破壊行為がされ、複雑な気持ちを感じました。Spatial construction through deconstruction。焼け焦げた椅子を拒否しているのか、保護しているのか、びっしりと張り巡らされた毛糸の「cocoon」、または、クモの巣と見るか、「人形供養祭り」の跡のように解釈するか、いろいろなアレゴリーが浮かんできました。
これは、ちょっとした論争をも起こりうる独創力のある作家の立場であることも要因でしょう。とは言え、彼女は素晴らしいコンテンポラリー・アートを実践し、「多文化考古学」を面白く再コンテクスト化しています。
ここで、もう一つの大事な相関の仕掛け代表作をお見せします。「First Papers of Surrealism」(Sixteen Miles of String) by Marcel Duchamp、executed in 1942。(8) 彼がキュレーションした展覧会には、閉所恐怖症というより、不在や不明というような、混乱させる、第二次大戦中だからこその哀愁が漂っています。
これは、ある文脈で、塩田さんの傾向も似いています。「String」を繊細に使って、オーディエンスを罠にかけ、ユーモラスな虚構、「西洋アート・マトリックス」の理性と対立させています。彼女は、この何年かで緩やかに、クリティカルなメタモルフォーゼをしている様な気がします。
今回の作品中に、微妙なパラダイムシフトを発見しました。塩田さんの手から操られた赤い糸によって、鑑賞者は種々の隠喩を吟味し、様々な取捨選択ができる事でしょう。
塩田千春の魅力的な制作に対して共感の意を表し、開催中のケンジタキギャラリー/東京へぜひ足を運んでください!
この場を借りて、2001年から戦略的な応援・支える姿勢で塩田さんと腕を組んできたケンジタキギャラリーを讃え、感謝しなければなりません。次の大きなプロジェクトには、7月の高知県立美術館で(9)「Letters of Thanks」(ありがとうの手紙)の概念を用いて、現地の住人と携わりながら、「母型的な体感」を味わえるのではないでしょうか。毛糸玉を用いた多音節なString作を思わせ、きっと非奇抜で、美しく静黙な個展であろうと想像します。これからも皆さんと一緒に、彼女のパフォーマティヴ・アート・ポエトリーを、ずーっと感激させて頂きたいです。
最後に、個人的な希望として将来、塩田さんには、松井冬子との二人展、それから、ドイツ・ハノーファー州立劇場専属女優・原サチコさんとのインタラクティブなパフォーマンス、ぜひとも実現して頂きたいです。
東京、2013年2月3日
亜 真里男
up-dated with new pics (taken between 2013 and June 2019), plus an interview with Daniel Templon during Art Basel 2019.
Excited to see Chiharu’s solo show / mid-career retrospective at the Mori Art Museum in Tokyo. Still in Basel, the 21st of June 2019, Mario A
(1 min 19 sec)
Art Basel 2019: Daniel Templon (owner of Galerie Templon and promoting constantly artist SHIOTA Chiharu 塩田千春) congratulates SHIOTA for the coming solo show in the Mori Art Museum, Tokyo. He strongly emphasizes and praises SHIOTA’s artistic practice, which should manifest her position as one of the best artists not only in Japan but in the world.
2019年11月7日 アップデート up-date:
塩田千春展 「魂がふるえる」@ 森美術館、総入館者数が66万6千人を記録
SHIOTA Chiharu “The Soul Trembles” @ Mori Art Museum Tokyo closes with a record number of visitors: 666.000
https://art-culture.world/articles/mori-art-museum-shiota-chiharu-森美術館-塩田千春/
脚注
(1) Marina Abramović 展「The Artist Is Present」
MoMA New York、2010年
http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/965
(2) レベッカ・ホルン展
東京都現代美術館、2009年
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/107/
(3) 塩田千春 (美術)・多和田葉子(自作朗読)・高瀬アキ(ピアノ)
「音の間 ことばの魔」
神奈川県民ホールギャラリー、2007年
(4) 米国の「薄い」歴史や移民社会の特別な仕組みの所為、Ono Yoko (オノ・ヨーコ)、On Kawara (河原 温) やYutaka Sone (曽根裕)を「日本のアーティスト」ではなく、「アメリカン・アーティスト」、正式的に、「U.S. artist」として認めた方が良いと思っています。「開発途上国」と比べて、「先進国」では、生活環境、仕事、政治制度を自由に選択出来ます。米国の場合、その国に健康保険、所得税などを払うならば、アメリカ人として見てしまいます。ところが、草間彌生さんの場合、時期的に自分は「アメリカン・アーティストである」と発言していました。
(5) The United States Holocaust Memorial Museum http://www.ushmm.org/
(6) 塩田千春「大陸を越えて」 国立新美術館 DOMANI・明日展 2013
(13 sec)
(7) 塩田千春「Waiting」2002年
Museum für Neue Kunst、Freiburg
2010年、美術館の再工事の時、職人が注意しなかった事で、この作品が損害を受けました。塩田さんによって元の形に再制作され、現在、パーマネント・インスタレーションとなっています。
Handwerker zerstören Kunstwerk im Museum
http://www.badische-zeitung.de/freiburg/handwerker-zerstoeren-kunstwerk-im-museum–35802226.html
(8) マルセル・デュシャンの「First Papers of Surrealism」展の1942年について、私の意見ですが、「creative curating」の元年として宣言できます。
(9) 高知県立美術館展覧会〈塩田千春展―ありがとうの手紙〉
2013年7月7日~ 9月23日
あなたの「ありがとうの手紙」をください。
http://www.kochi-bunkazaidan.or.jp/~museum/contents/exhibition/exhibition/2013/shiota/shiota_boshu.html
Tel 088-866-8000
塩田千春 展 – 赤い線
2013年1月11日 – 3月2日
Kenji Taki Gallery ケンジタキギャラリー
東京都新宿区西新宿3-18-2-102
http://www.kenjitaki.com/index.html
http://www.kenjitaki.com/shiota2013/shiota2013tokyo_1.html
塩田千春のホームページ:
http://www.chiharu-shiota.com/
up-date, STRONGLY RECOMMENDING!!!
塩田千春展:魂がふるえる
@ 森美術館 2019.6.20(木)~ 10.27(日)
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/index.html
日本語のPR、一部:
本展は、塩田千春の過去最大規模の個展です。副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを、他者にも伝えたいという作家の思いが込められています。糸を空間に張り巡らせたダイナミックなインスタレーションはいまや彼女の代名詞ともいえますが、これら大型作品6点を中心に、立体作品、パフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを加え、25年にわたる活動を網羅的に体験できる初めての機会になります。「不在のなかの存在」を一貫して追究してきた塩田の集大成となる本展を通して、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を実感していただけることでしょう。
主催:森美術館
協賛:
株式会社大林組
株式会社 資生堂
thyssenkrupp Elevator
トヨタ自動車株式会社
サムソナイト・ジャパン株式会社
株式会社 トゥミ ジャパン
TRUNK(HOTEL)
協力:
シャンパーニュ ポメリー
制作協力:
Alcantara S.p.A.
個人協賛:
James Hsu
Sophia and Leon Tan
八城千鶴子
企画:片岡真実(森美術館副館長 兼 チーフ・キュレーター)
Shiota Chiharu: The Soul Trembles
@ Mori Art Museum 2019.6.20 [Thu] – 10.27 [Sun]
https://www.mori.art.museum/en/exhibitions/shiotachiharu/index.html
English PR text:
quote:
This will be the largest-ever solo exhibition by Shiota Chiharu. The subtitle “The Soul Trembles” references the artist’s earnest hope to deliver to others soul-trembling experiences derived from nameless emotions. While Shiota’s dynamic and immersive installations consisting of threads strung across entire gallery spaces are particularly well-known, this will be the first opportunity to experience in detail twenty-five years of Shiota’s oeuvre; primarily in six large installations, plus sculptural works, video footage of performances, photographs, drawings, performing arts-related material, etc. Through this exhibition epitomizing the “presence in absence” that Shiota has explored throughout her career, visitors will doubtless gain a sense for themselves of the meaning of living and journey of life, and the inner workings of the soul.
Organizer: Mori Art Museum
Corporate Sponsors:
OBAYASHI CORPORATION
SHISEIDO CO., LTD.
thyssenkrupp Elevator
TOYOTA MOTOR CORPORATION
Samsonite Japan Co., Ltd.
Tumi Japan
TRUNK(HOTEL)
Support:
Champagne Pommery
Production Support:
Alcantara S.p.A.
Patrons:
James Hsu
Sophia and Leon Tan
Chizuko Yasuhiro
Curated by Kataoka Mami (Deputy Director and Chief Curator, Mori Art Museum)
Curator: 中野仁詞 NAKANO Hitoshi
次回ヴェネチア・ビエンナーレへの想い ー塩田千春&中野仁詞 インタビュー (2014.08.28)
https://magcul.net/topics/97918
2019年10月8日のアップデート、facebook公式な発言:
Hitoshi Nakano
2019年10月6日
魂がふるえる。千春さんの森美術館の展覧会は10月27日まで。お見逃しなく。2007年に千春さんと初めて一緒に取り組んだ「沈黙から」展(神奈川県民ホールギャラリー)。貴重な映像を見つけました。神奈川芸術文化財団の芸術総監督で作曲家・ピアニストの一柳慧、寒川晶子さん、足立智美くんのオープニング・パフォーマンス。展覧会会期中、インスタレーション作品なかやホールで6演目9公演の美術とパフォーミングアーツの実験をしました。神奈川芸術劇場でのKAAT Exhibitionのルーツがここにあるようです。12年前の記録。
(1 min 11 sec)
ICHIYANAGI Toshi + SAMUKAWA Akiko + ADACHI Tomomi “Dedicated to the Space” (My translation: “Un hommage à Shiota Spatial”) Experimental Music
当時のおまけ
In abstract terms, compare with:
Brief Historical Overview of Japanese Emigration, 1868-1998
日本人の移住の歴史 1868年ー1998年
http://www.janm.org/projects/inrp/english/overview.htm
日本館 Japan Pavilion GIAPPONE(= イタリア語)Japan
ここに載せた写真とスクリーンショットは、すべて「好意によりクリエーティブ・コモン・センス」の文脈で、日本美術史の記録の為に発表致します。
Creative Commons Attribution Noncommercial-NoDerivative Works
photos: cccs courtesy creative common sense
2019/10/31 up-date:
BT news:
quotes:
森美術館「塩田千春展」、66万6271人の入場者数を記録。同館歴代2位
10月27日に閉幕した森美術館の「塩田千春展:魂がふるえる」が、66万6271人の入場者数を記録したことが発表された。これは同館で歴代2位の数字。
森美術館で6月20日から10月27日の130日間にわたって開催された「塩田千春展:魂がふるえる」が、66万6271人の入場者数(六本木ヒルズ展望台 東京シティビューとの共通チケット)を記録した。
この数字は、「ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ」(2003〜04年)の73万985人に次ぐ、同館歴代2位となる。
「塩田千春展」は、塩田千春にとって過去最大規模の個展。大規模なインスタレーション作品を中心に、初期の作品から最新作までの25年間にわたる活動が網羅的に紹介された。
同館によると、来館動機のトップはSNSの約54パーセントで、その属性は女性が65パーセント、20代を中心とした30代以下が78パーセントだったという。
full text:
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20815